セクハラならぬムシハラ

特定の種だけ虫嫌い(イモムシ・羽虫・刺す虫・ムカデ系)

女性 あつこ さんからの投稿。

 

某総合博物館で働いています。

あれは、昆虫展をやっていた、とある夏の火曜日の朝のことです。前日の月曜日は休館日でした。

その日、わたしは企画展会場のご案内兼監視係だったので、休み明けのテンションだださがりの頭で会場に向かいました。

ぼーっとしたまま着いてみると、わたしの座るべき机に5センチほどもある(そう見えた)黒と黄色の巨大なハチが、ボン! と横たわっていました。

 

「ス、ススメバチ?!」…たぶんキイロスズメバチだったと思います。いきなり、脈があがります。「な、なぜ、こんなところにスズメバチの死骸が?!」思わず、2、3歩あとずさりました。館内は、だれもおらずシンとしています。

「ど、どうしたらいいんだ?! もうすぐ開館してしまう!」

「お、落ち着け! だいじょうぶ、死んでいる」2、3度深呼吸をします。

「ひょっとして、これは、ドッキリカメラか? わたしをおどろかそうという学芸員のいたずらなのか? いや、まさか、そんなことをするような人はいないはずだ…」「いいか…落ち着け…まず、連絡をしよう。電話は、と…」「あっ! 電話は、机の後ろ側だ……スズメバチの机を回りこまなければ、電話もできない。どうしたらいいんだ?!」よくよく後から考えれば、ほんの少し歩けば別の電話があったのですが、その時はまるっきり気がつきませんでした。自分を説得します。「いいかあ~、落ち着けよ~、スズメバチは死んでいるんだからな~、動かないんだからな~」そろーっと、できるだけ遠回りをするように壁にはりつくように机を回りこみ、担当係までようやくの思いで電話をしました。

 

「せ、先生、昆虫展の机にスズメバチの死骸が…!」かなり決死の思いで非常事態を伝えようとしましたが、返事は、のんびりしたものでした。「ああ、それね~……」「先生! どうでもいいから、早くひきとりにきてください! ここにこんなものがあったら、仕事できません!」ガシャッ!!学芸員がのんびり現れます。「これね~」いろいろ説明を始めようとしますが、そんなことは聞く耳もちません。「さっさと持って帰ってください! こんなところに、こんな死体をおかれたら、困ります!」早々に、おひきとりいただきました。


のちほど、同じ職務の先輩にあたる人から「学芸からクレームきたわよ。スズメバチ、つきかえしたんだって?」わたしもカチンと来ます。「当然でしょう?! 会場入ってすぐに、いきなり巨大なスズメバチの死体が目に入ったら、お客さんだって動揺します。第一、そんなところに座っていられないじゃありませんか? 仕事になりません。わざと置いたなら、おふざけが過ぎます!」職場におけるセクハラならぬムシハラ(?)くらいの気分でした。
結論から言えば、日曜日の自然観察会で見つけたスズメバチの死体があまりにも完全体できれいだったので、こどもたちに会場で見せてあげていたとのこと。

 

わたしへの申し送りに不手際があったのが、問題のひとつではありますが、それでも、わたしは、次のように思いました。「見せたいというのなら、ちゃんと箱にいれて持ってきてほしい。箱に入っていれば、それはスズメバチの標本になるから大丈夫なんだから。ボン、と、机に転がしておいたら、それはただの死体でしょーが……」
もう、2年前のことになりますが、いまだに忘れられません。